ビジネス「絵」会話との出会い
ピクト図解メソッドを考案する随分前から、私は仕事で何かを説明するときにはいつも「絵」を使っていました。
新入社員のころの私は話がとても下手で、いつも課長から「お前の言っていることはよくわからない」「話が長い。もっと簡潔に話せないのか」と言われていました。
そんな私を助けてくれたのが、同じ部署のS先輩でした。
「今の話を絵に描いてみよう。上手い絵じゃなくていいからね。まず、君がここにいるよね。で、先方の担当者はここにいて……」
そんなふうに言いながら、私のつたない話を紙にまとめてくれたのです。
「話が込みいると、言葉だけではなかなか伝わらないものなんだ。この紙を1枚持って話せば、わかりやすさがまったく違う。紙を見せながら課長と話しておいでよ」
それ以来、私は課長と話をするときに、紙とペンを持っていったり、ホワイトボードを使ったりするようになりました。
ディスコミュニケーションというのは、お互いの頭の中にある「絵」が食い違っていて起こることがよくあります。そこでビジュアルを使えば、複雑な関係性も、さっと共有することができるのです。
私は日々の業務のなかで、「絵」の効用を実感していきました。「しゃべるのが苦手なら、絵で表現すればいい」というS先輩のアドバイスは、実に的確でした。
“「絵」会話”のためのビジュアルは、誰が見ても一瞬でわかるということを重視して、少しずつバージョンアップさせていきました。
当時よく使っていたヒトのマークは、カラダの部分が”棒”になっているもので、手足もある”棒人間”でした。
このビジュアルだと、ちょっと幼稚な感じがしませんか?
人はぱっと見たときの第一印象に左右されるものです。特に社外のクライアントに見せる場合は、知的な雰囲気でまとまっているにこしたことはありません。
現在のピクト図解の表記ルールでは、ヒトを「棒人間」では描きません。すべてのシンボル記号は、デザイン性も考えたピクトグラム、略して「ピクト」で描くことにしています。
細かいこだわりだと感じるかもしれませんが、「棒人間」で描いた図解と、ピクトで描いた「ピクト図解」を持っていった時とでは、クライアントの反応に歴然とした差があったことをお伝えしておきます。
印象というのは、ときに大きく価値判断をも左右するものなのです。
出所:『「記事トレ!」日経新聞で鍛えるビジュアル思考力』板橋悟著(日本経済新聞出版社)
ということで、現在の表記ルールで書いたピクト図がこちら。
”知的な雰囲気”に見えます、よね?